太い音の出し方を考える (24)
PUが反応しないんじゃ意味がない
まずはOPBの実験動画。弦がポールピースから外れるどころか、コイルがない部分にまで引っぱって音を出してみました。磁界が狭くシビアなOPBのPUの場合、音量も出なくなるし太い音もなかなか出てこないことになります。
一方、正直にそのまま押し込んで弾くとそれだけPUも反応。ポールピースに対して横に引っぱってしまうより音が明らかに強く大きく変化します。
最後のタッチはちょっと変化球。横に引っぱってから押し込むようにしています。問答無用で太く大きな音を出そうとする気持ち先行のタッチって感じ。「理屈じゃねぇ!」なノリですが、結果的にPUが弦振動を拾いやすくなっている為、これはこれでありだとは思います。
問題なのはやはり、PUが反応してくれない弾き方。どんなに頑張って横に引っぱっても応答がいまいちなのがOPBの現実。生音では大きな音が出ているかもしれないけど、それを拾ってくれないんじゃ意味がない。目の前にあるマイクを無視してあさっての方向に大声を出しても無駄。怒鳴っても文句を言っても解決しない。必死の努力が報われない事実が存在する。
「考えるのは面倒!」なんて考えるならばこそ、電気的に強くなる弾き方を素直にした方が良い。太い音を出したいと望んでいるにもかかわらず、自分からPUを遠ざける弾き方、弦が反応しないように鳴らすのはいかがなものかと。
必ずしも指を深く当てる必要はない
「太い音を出してやる!」と意気込むとついつい力みがちになるもの。指を弦にべったりと当てたり、ブンブンと弾こうとする気持ちは分かります。ただ、それだけだと奏法としても表現方法としても限定的になりがち。前述したように、それで太く大きな音が出るとは限らないのも難しい。
たとえばジャズベース。それもフレットレス。使うのはリアPUオンリー。簡単に言えばジャコ系のサウンド。これをブンブン系のタッチで上手く弾くのはかなり厳しい。最悪、音が情けなく潰れるだけで終わってしまう可能性もある。
細かいフレーズを弾くとなれば、なんとか指先だけで太い音を出せないかと考えたい。鈍重になりがちなフレットレスの立ち上がりも同時に解決できたらこんな美味しい話はない。となるとここでもやはり、PUには逆らわないようにしたいところ。立ち上がりを良くする意味でも、弦を暴れさせるよりは的確に鳴らしたい。
OPBとまではいかないけれど、シビアなことに変わりはないジャズベース。シングルコイルを鳴らすのであれば軽くでも弦を押し込むこと、指のしなりを意識、利用することは身に付けたい。
そればかりではフレットレスとしてつまらない、もっと音を伸ばしたいなんてことであれば、もっと後鳴りする振動を意識して弾けばよし。「ブン!」と鳴らすのではなく「ブゥォオオン」と鳴らすのも醍醐味。様々なタッチコントロールを身に付けておけば、同じ楽器・同じセッティングでも音が別物に変化するから面白い。
力任せだけではなかなか実現できない世界が広がります。
シビアなほど正義なんて事はない
磁界がシビアで難しい楽器を弾けば自然とタッチも鍛えられるとは思いますが、それが絶対的に正しいのか完全移行すべきなのかと問われたら答えはノー。OPBじゃどうやったって実現が厳しいことがあるならOPB以外を素直に選んだ方がいい。ジャズベースがなんかしっくり来ないならプレベを弾いてみたりハムバッカーの楽器に行くもよし。
タッチを鍛えた方が良いのは言うまでもないけど、肝心のやりたいことを実現できないのではあまり意味がありません。そのあたりを本能的にでも判断できるようになれば、楽器の選択を誤る可能性も減っていくはず。
たとえばジェマーソンスタイルの1フィンガー。人差し指によるアップストロークを加えることになるこの奏法。当然のことながらアップ側で弦を押し込むのは厳しい。OPBのようなベースとの相性は最悪と言えるかもしれません。
ではどうするか?
『アップストロークも拾ってくれる楽器にすればいい』
こういう簡単な話。
実に分かりやすい選択なんですが、これが意外とできないものなんですよね。変なこだわり、先入観、固執、色々なものが邪魔してなぜか遠ざけてしまったりする。太い音を出したいなら素直に太い音が出る楽器を弾けばいいのに、周囲の目、他人の価値観を気にしてしまったり、「人と同じは嫌だ!」なんて意識してかえって最適な答えを見い出せなくなったりもするから不思議。
自分がジェマーソンスタイルでベースを弾くとすれば、
・横振動も拾うPU
・PUフェンス
・スポンジ
・フラットワウンド
このあたりは必須にしたいところ。さらに加えるならば良い感じの歪みやコンプも捨てがたい。一本指でもアップストロークでも十分に鳴ってくれる状態に仕上げたいですね。
フィンガーランプなども邪道扱いされやすいものですが、それを言い出したらPUフェンスだって邪道、マーカスだってジェマーソンだって汚い方法を使ってると批判しないといけなくなります。ピックガードを利用するなんて純粋じゃない。PUの上で弾くのだって駄目。フェンダーなんて存在すら許されなくなってしまうかもしれません。
そんな馬鹿なこだわりなど持たず、
『望むままを行う』
好きにするのが一番。
理想を実現して楽しんだ方の勝ち。
エレクトリックベースは電気楽器
生音にこだわるのも弦をしっかり鳴らすのも素晴らしい意志。長い目で見ても価値的なのは間違いありません。何も考えずエフェクター任せにするより自分は好感を持ちます。しかしイメージばかりが先行して結果が伴わないのは考え物。「パッシブ=純粋=誤魔化しがない」みたいなのもそうですね。実際には痩せまくりとか足元で加工しまくりなんて状態では笑えません。
縦振動のタッチにしてもこれは同じ。垂直に押し込んでいても弦が鳴ってないのでは効果は微妙。それどころか押し込んでるつもりで終わっている可能性もあるから怖い。肝心の瞬間に弦に負けていたり妙な方向に巻き込んだりこねると悲惨。OPBのPUは非情。寛容に親切に拾ってくれるなんてことは期待できません。
大きな音を出せる環境で一人で実験すると色々な気付きがあって面白い。
『どの角度でどう弦を振動させたら音が大きくなるか太くなるか?どう弾くと好きな音がするか?』
これを把握しておく意味は計り知れません。
検討違いなタッチ・ピッキングを闇雲に続けていくのではなく、美味しい反応を示すポイントを掴んでおけば音もそれだけ良い方向に変わっていきます。もっと言えば美味しくない反応だって使い様。絶妙な表現方法としてハマる可能性もあるのが音楽の奥深さ。それを自分の手で実現するのがタッチコントロールの醍醐味。
「どう弾いても同じ音になる・・」
「常に安定した良い音が出てくれる!」
「弾き手によって音が違うのが最高!」
「全然安定しないわ何だこれ・・」
なんでも考え方次第。世間の評判やイメージを無視するのも一つには正解。何が合ってるかどう判断すべきかは自分で決めればよし。そのあたりの感覚がいまいち掴めてないなら、とりあえずはジャズベとプレベと大きく分類、またはその中でも特にジャズベを研究してみるのがおすすめ。
バーポールピース、ラージポールピース、大出力、アクティブ、ハムバッカー構造、世の中には実に様々な選択肢が存在していて試行錯誤もしやすい。それら散々試した末に辿り着いたのはごく普通のPU、しかもパッシブだったなんてこともあるから人生何が起こるか分からない。
『細く頼りない音しか出なかったはずのベースとPUが今では一番太く抜ける音を叩き出す』
成長と変化によっては本当にこんなことにもなる不思議。
タッチを映し出す鏡を求めるか便利な増幅装置を求めるか?どちらが良いか悪いかではなし。自分の目的や好みとチグハグしていては違和感があって当然。ピンと来ない何かを感じているのは正しい感覚である可能性も高い。
PU侮るべからず、ですね。加えて生音レベルでも相性めちゃくちゃでは色々厳しい。マイクの選択も扱いも何もかも合ってないのでは良い結果は得られないでしょう。何か悩みを抱えていたり次のステップを求めるのであれば、自分の音、楽器、システム、タッチにじっくり向き合ってみることを推奨する次第。
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