チャック・レイニーとスティーリー・ダン
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音楽学校時代に聞いた逸話
超大御所、レジェンドクラスと言ってもいいチャック・レイニー。
そのチャックがスラップ厳禁のレコーディングで掟を破り、OKテイクを叩き出したとの逸話を聞かされたことがあります。それがしかもあのスティーリー・ダンのレコーディングだったのだから驚愕。
簡単に説明しますと、
「理想の実現の為ならどんな人間でも呼ぶしクビにする」
「超一流どころですら気が狂うような仕事現場」
とりあえずこう思っていただければいいんじゃないかと。
『ドナルド・フェイゲン』
『ウォルター・ベッカー』
この二人を納得させない限り、同じ曲・同じパートを延々と繰り返しやるハメになるという、様々な伝説(悪名?)があるレコーディング。曲によってメンバーが違うのは当たり前。それどころか違うバンドを用意するのも当然。
数えきれない没テイクを重ね、屍累々にアルバムを完成させるスタイルなのがスティーリー・ダン。その数々の逸話を聞くだけでも笑ってしまう、いや、ワクワクしてしまう存在です。
彩(エイジャ)
そんな地獄の中で完成したのがかの有名な伝説の名盤 これはもう音楽を愛する全ての人が必聴すべき作品でしょう。
このアルバムを知ってからすでに20年近く聴いていますが、ま~、飽きません。聴く度に新たな発見、違った味わいを感じたり、とにかく何度でも聴けます。複雑怪奇とかマニアックで聴いてられなどそんなことがないから凄い。言葉は悪いようですが、適当なBGMとして鳴らしておくのにも十分使える絶妙なライトさが素晴らしい。
一方、踏み込んでみると想像を遥かに超える難解な要素が凝縮、理解に相当な教養や時間を要する面もあったり、本当に奥が深い。普通のポップス、大人のロックアルバムとしても聴ける。音楽マニアや楽器オタクが聴いても納得。そんなアルバムなかなか存在するものじゃないですよね。
一生聴けるまさに超名盤。
PEG 伝説のスラップ
今回の本題であるチャック・レイニーのスラップ。それが聴けるのがAJAに収録されている【PEG】のサビ部分。
何が凄いって「スラップだと分からなかった」ってこと。言ってみれば派手でもなんでもなし。特に面白くもないフレーズだと最初はまったく注目もしませんでした。「これスラップなんだぜ!」と後に恩師から教えられそこで気付いたぐらいです。
話を最初に戻しますが、スラップ禁止令が出ていたらしいのがこのレコーディング。 でもチャックは「いや、ここはスラップだ。ちょっとやらせてくれないか?」と提案したのだそうな。
しかし前述の通り、徹底的で異常なこだわりを持っているのがスティーリー・ダンの二人。「いや、スラップなんか駄目だ。普通に弾いてくれ。」と断固として譲らない。しかし指弾きで何度やってもOKは出ず。
痺れをきらしたチャックが取った行動は、
『手元を隠す』
何ともいたずら的と言うか、ちょっと微笑ましくすらある手段。体の向きを変え、障害物に隠れ、二人の目が届かないように工作。そしてこっそりスラップを試みたそうな。
その結果、
「これだ!」
ついにOKテイクが出てめでたしめでたし。
思い描いていた理想のサウンドがまさかスラップから生まれたとは考えもしなかったのか、フェイゲンとウォルターの二人も特に疑いもせずPEGのレコーディングは終了。後で真実を知った現場がどんなものだったのか想像するだけでも面白すぎます。
「いや~、チャック良かったよ。」
「やっぱりこの曲はスラップじゃないね。」
「ほんとそうだな。ところでこいつを見てくれないか?」
「スラップじゃん!」
こんなやり取りがあったのかと思うと爆笑物。
グルーブと音楽の為のプレイ
そんなこんなPEGのサビ部分は実はスラップだったという逸話。前述した通り、それそのものは派手でもなんでもなくむしろ超地味。でもその何気ない部分に徹底的にこだわるのが素晴らしい。理想の音楽の為、その曲を完成させる為に全力を尽くすその姿勢が凄い。
それこそがスティーリーダンの魅力、チャック・レイニーのような超一流ミュージシャンの存在意義、感動すら覚えるところであります。だからこそかこれが全然真似できなかったりするんですよね。フレーズ自体は大したことないオクターブのパターン。でも不思議なぐらいに『らしさ』が出ない。
「あ!スラップだ!」って派手にやってばれちゃ駄目。「スラップやるぞ!」なんて目的が最初にありきじゃ何か違う。もうその時点で理想のPEGにはならない。絶妙に心地よくはずむベースサウンドとグルーブ。それを実現するための手段が結果的にスラップだった意味。
単なるひけらかしではないプレイを知る意味でもPEGは必聴と言えるでしょう。
ドキュメンタリーが超面白い!
チャックのスラップの話は都市伝説みたいなものなのかと最初思っていましたが、なんと当の本人達がAJAのレコーディングについて映像付きで解説をしているから驚き。
PEGについて凄いのは、ギターソロを録るのにとっかえひっかえ8人ぐらい使ったとか、明らかに迷走しているのが分かる没テイクも聴かせてくれたり、それを知るだけでもニヤニヤしてしまいます。
AJAをよく聴いてたり知っている人ならこれも必見でしょう。感動します!笑えます!マジで超面白い!
ま~ほんと、こういう作品をまたブルーレイで出すなり、ちゃんと残していってほしいですよね。知られていないのはあまりにもったいない、文化の損失だとすら感じます。
実に偉大。
めっちゃくちゃ良い。
一生だって付き合えます。
まさに伝説!!
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