6弦ベース選び
値段やスペックはあてにしない
合わないものは合いません。どうやってもしっくりこないものはこない。話の全てをいきなり全否定するようかもしれません。でもやっぱり直感って大事です。
「このスペックで悪いはずがない!」
「この値段なんだから絶対良いんだ!」
「多機能だから万能に使えるぜ!」
こういう考え方はやめた方がいい。いざ使うと万能どころか1の魅力すらなかったりすることも珍しくありません。楽器オタクな場合、どうしてもあれこれ考えちゃったりするものですが、できれば先入観も偏見もなく、「ズドン!」と来るものを見つけられればと思うところ。
一時の気分なんてすぐに変わりますし、衝動に任せるのが怖いのも確か。しかし、あれこれと自分に嘘をつきながら弾くよりは良いんじゃないかと。それが駄目だったら何が合わなかったのかを分析してまた次に進めばいい。
『好みをはっきりさせる』
これが楽器選びの大きなポイント。
大好きなプレイヤーや尊敬する人が使っていたとしても、それがそのまま自分にも合うとは限りません。
たとえばジョン・マイアングの遍歴
ドリームシアターのジョン・マイアング。6弦ベースを使うのであればもはや知らない人はいないレベルの方。
初期の頃はトバイアスやタングの6弦ベースを使用していたようですが、そこからヤマハと契約してオリジナルモデルを使用することに。そのヤマハの中でも後期はミュージックマンのスティングレイのような1PUスタイルにもしたり、楽器の傾向としてはどんどんシンプルになっていった感が強いですね。
そして最終的にはその本家ミュージックマンに落ち着いた様子。弦ピッチも強力に狭く変更、驚くほどスリムな6弦になったのが印象的。
改良を重ねまさに、
『自分仕様のベース』
人が使ってどうこうではない領域に辿り着いたのだと感じるところ。まさに自分自身のための楽器を使用しているなと。
高級志向や綺麗な路線ではなくもっとシンプルな方向性、パーカッシブで激しいアタックにも応えてくれるような、そんなロックな仕様の6弦を求めていたはずのマイアング。
この『ロックな6弦ベース』ってやつが意外と存在しないんですよね。かなり選択肢が限られていたり、特有のノリを求めるのが難しくなるから厄介。今の時代はだいぶ違うかもしれませんが6弦ベースは本当、上品で小綺麗なものばかりな印象が強かった。
そこを色々誤魔化して、
「高級だから!」
「スペックが凄い!」
「色々付いてる!」
こういった楽器選びをしてしまうと失敗する可能性が高くなるのではないかと考える次第。マイアングの事例を見ても想像できるように、自分に合う楽器、特化した楽器を選ぶべきでしょう。
まだまだそういった好みが出来上がってないということだったら、多くのミュージシャン、バンドでよく使われているものを選ぶのも無難な選択。4弦で言えばジャズベやプレベよろしく、時代を超えて評価の高い楽器を選べばそこまで失敗することはないはず。
マイアングもこのあたりの実用性にかなりこだわりがあるようでして、実績のある楽器に惹かれる傾向があると話している様子。4弦時代ではジャズベースやスティングレイ、スペクターなども使用していたようですし、確かにあまり無茶な楽器選びはしないイメージがあります。
6弦だからと特別な方向性を求めすぎるのは考えもの。自分に必要な機能性を追い求めた方が音楽的、楽器としても正解を得やすいでしょう。
軽い個体を選ぶ
音が良いかどうかよりまず気になるのが重量。ここで失敗すると最悪な事態を招きます。自分が17~18歳頃の話ですが、その時に最初に購入した6弦にはやられました。
『重量6kg』
酷い目に遭った記憶がものすごく強い。
ケースとケーブルとチューナー。それだけでも10kgを超えてしまう恐ろしさ。移動するだけでも問答無用で消耗します。その歳で肩こりと腰痛を発症するはめになってしまった為、何の未練もなく手放すことに。
他にも5kgオーバーの6弦を数本所有したことがありますが、これも長時間の演奏になると辛くて仕方ありませんでした。重い楽器は座って弾くにも歓迎したくないものですね。それこそ単純に体に悪い、気力も奪われます。
それに懲りて4kg前半で済む6弦を買うようになりましたが、6弦を弾くことがここまで楽になるものかと驚いた次第。軽いから音が悪いかと言うとそうではなく、むしろ遥かに良い感じ。やたら硬質だったり変に凝った木材を使おうとするほど、音はおかしくなる傾向を自分は感じます。
「ベースは重ければ重いほど良い!」
こんな先入観や価値観はほとんど役に立ちませんでした。ヘヴィ級=正解とは考えない方がいいと断言しても問題なし。
あまりに酷いレベルだとこれ、
『楽器にならない』
本気でこう言いたくなるほどしんどくなります。
変に凝るよりボディ材はシンプルに
上記の話と繋がりますが、異なる木材を多用したり多重構造になっているようなものには気を付けた方が良いでしょう。
多弦になるとつい凝ったものが欲しくなりがちですが、楽器が大型化するのと鳴り方が複雑になる分、逆にシンプルにまとめた方が正解のように感じます。複雑な構造を求めたりそれで成功させるんだったら、その方向性のノウハウがちゃんとある工房を選んだ方が良いですね。
たとえば、ぽっと出のよく分からない個人製作家とケンスミスなどの老舗の工房。豪華さだけを求めた印象が強いベースと音の傾向をしっかり計算しているベース。言うまでもなくこれを一緒に考えてはいけません。
大体の場合、弾き手のことより自社の個性主張に躍起になったり、木工自慢に必死になったり、実用性には乏しくなっていく傾向を感じます。見た目豪華なトップ材などをアピールしてくるようなものにも要注意。音の計算も何もなさそうな場合、良い結果になることはほとんどないでしょう。
偏見たっぷりに言うのであれば、接着剤を駆使した楽器の何が豪華なのか、余計な手間で楽器が高くなるのかと強く疑問になる次第。スルーネックなども個人的には苦手な傾向のあるスペックですね。硬く重い木材がボディのメインを占めるようになってしまう楽器は難しい。
繰り返すようですが、そういったノウハウをしっかり積んで研究された楽器でなければ、多くの場合は失敗に終わる可能性が高いと思った方がいい。前述した通り、多くの実力者から長年にわたって高い評価を得ている楽器には、それなりの理由がちゃんと存在しています。
ボディシェイプに気を付ける
ボディバランスの悪さは多弦にとって致命傷にもなりかねません。1フレットがやたら遠く感じるようなものはそれだけでアウトな可能性が高い。つまり、低音弦側のボディホーンが短いものには要注意。
軽量化や利便性を図るのは分かりますが、無闇にボディをコンパクトにしたって上手くはいきません。逆に扱いづらかったりしますし、それでフォームが安定しなかったり疲れてしまうのでは本末転倒。
ハイポジションの演奏性を重視するあまり、ジョイントを削りまくったり貧弱にするものにも気を付けた方がいいですね。低音はPUとプリアンプ任せ、アンサンブルでは使いものにならない音になりがち。これでネックも粗悪でフニャフニャなんてことだったら目も当てられません。
弾きづらくて音も悪くて安定もせずどうにもならない・・・
残念ながら多弦には多くありがちです。
ヘッドデザインに気を付ける
今時はそんなに変なものはないと思いますが、ローB弦を張るのにナットからペグまでの距離が近いようなのがあったら、それも注意が必要。すべての弦をスムーズに無理なく張れた方が無難です。
コンパクトにするために無理が生じたり、やたらと大型化してるのも考えもの。スタンダードに3対3のペグ配置にして、自然にまとめるのが望ましい印象。
ナット近くのテンションバーで弦に角度を付けるようなことになっている場合、弦が不自然なカーブを描くことになってしまうかもしれません。
ナットからペグまでの距離を最低限は確保したいところ。
ネックも指板も頑丈で無難に越した事なし
これまたついつい、スペシャルな材やら仕様を求めがちになってしまうところですが、ここを失敗すると本当にどうにもならなくなります。
とにかくコンディションの維持が命になる多弦の世界。年がら年中ぐにゃぐにゃ動いているのでは使い物になりません。同じメイプルでも超トラ目材とかは要警戒。ダブルトラスロッドなんて仕様もありますが、根本的に材が落ち着いてないのでは意味がない。調整も難しそうだし、単純に重くなりそうだし、あまり歓迎したくない方法です。
後、これは自分の好みの話ですが、やたらと高域が繊細になったり、帯域によってレスポンスが大きく異なってしまうようなアンバランスなものは苦手。定番になる材にはやはり、それだけの意味があると痛感する次第。音的にもコンディション的にも、無謀な冒険をするのはおすすめできません。
それと同様、極端な薄型や分厚すぎるネック、根拠のない特殊な形状は避けたいところ。表面的な演奏性、高音域やハイポジションでの煌びやかさばかりを求めると、ベースとしては高確率で失敗する印象。
繰り返しますがベースが欲しいのであればやることは決まっています。
『ベースを買うべき』
ギターもどきには手を出さない方がいいでしょう。
スペック張り切りすぎのベースもどきにも要注意。
スケールは34インチを基本にするのが無難
当たり前の話っちゃそうなんですがでも基本ですね。まずは34インチで完成されてることが望ましい、それに越したことはない。
無理に伸ばす必要はないし、長くしたからと良いものができるとは限りません。長いスケールの何が嫌かって、特殊な弦が必要になるかもしれないこと。選択肢が減ったり、入手が面倒だったり、そういうのは勘弁です。
今時はネットで何でも簡単に手に入りますから、そこまでの心配は要らないのも確かなんですが、何かトラブルがあった時に対応する弦がないってんじゃ困ります。そのトラブルにも常日頃から備えておけばいいって話ではあるけれど、いずれにせよ、入手が容易だったり無難に済ませられる意味は実はすごく大きい。
ただでさえ流通の条件的によくない点があるのが6弦ベース。弦まで特殊で入手困難では笑えない状況になってしまいます。
そんな理屈を遥かに超えた魅力を発揮した楽器かどうか?
それも一つの基準になるかもしれません。
スラップは諦めてしまうのも手
ちょっと極論か暴論なようですが、誤解を承知で言うならば、6弦に超良いスラップサウンドを求めるのはやめた方が無難かなと。
24フレットのものが9割以上を占めるであろう6弦ベースの世界。その時点で4弦のジャズベのようなスラップサウンドを求めるのは酷というもの。高域特性の悪いPUも非常に多いですし、個性の主張や無理な構造が仇になり、PU位置も変なものが多い。
そこをちゃんと計算して作ってる良いものは本当に僅か。あれもこれもと寄せ集めているような仕様や方向には注意が必要。大体の傾向としてもっさりして鈍臭いものが多かったり、スラップサウンドがいまいちなものばかりなのが多弦世界の悲しい現実。
逆に言えば、スラップで気持ち良い音がするならそれは貴重ですね。レスポンスが良くレンジも広いなら、その時点で一歩出ているとも考えられそうです。
選択肢としても分かりやすいメリットになるはず。
PU位置に気を付ける
上記の話と同様、おかしなPUの配置は間違いなく音もおかしくなります。特に2PUの場合、干渉による音痩せが酷くなるリスクが付きもの。そのミックスサウンドを完璧にイメージして独自に作ってるような工房はあまり存在していない印象。
たとえばフォデラやF-BASSなど、フェンダーのPU位置から崩すことをあまり良しとしてないんじゃないかと想像。多弦と言えば名前が挙がるMTDやヤマハなどにしても、フェンダーからそこまで大きく離れてはいない位置に設定してると感じます。
ケンスミスのような存在までいけば、フェンダーからは完璧に離れたところで自社の楽器を完成させていると言えそうです。一方、あれはやはり、それだけの確固たるコンセプトやノウハウがあるからこそ出来ることではないかと思うの確か。
やはり、何の計算も音のイメージもなく作ってるようなものには注意が必要ですね。残念ながらプリアンプによる後付けでどうにかなるって甘い話はないでしょう。
良い生音だけを求めるのではなく、我々が使用するのはエレクトリックベース。電気的な部分を存外に扱ってしまうのは本末転倒ではないかと考えます。
謎の工房・高すぎる楽器はとりあえずスルー
「誰も使ってない!珍しい!」
こんな理由で飛びつくと酷い目に遭う可能性も高い。ここまで話してきた通り、高いから良いわけではないから楽器選びは難しい。
「全ての工程を一人で!」
なんて言うと凄く良いものに聞こえそうですが、それだけ手間もコストもかかることを意味していると考えると、無駄に高価になってしまう可能性も十分ありえる話。
独自のこだわりを持つのはいいけど、
・木材の選択に何も根拠がない
・ルックス重視でバランスめちゃくちゃ
・ボディが体に全然フィットしない
・ネックはぐにゃぐにゃ
・シェイプもいい加減
・PUの位置はテキトー
・音に自信が無いから定番のプリを搭載
など、こんな事態になってしまうのは勘弁な話。ハンドメイドだのオリジナルだの言っても、ただ無闇に高いだけでは何の価値もありません。
繰り返します通り、
「高い楽器は凄いはず!」
安易な期待は捨てた方が良いでしょう。
これは本当に注意なポイントですね。良心的な価格で頑張ってるところに気付けなくなってしまう可能性もあります。
信頼できる店で買う
当然の話のようですがこれが本当に大事。多弦に対する理解がなかったり、扱いが分かってない店で買うのはやめた方が無難。
輸入楽器について言えば、代理店の対応がはっきりしないとか扱いがいい加減とか、そんなところに当たると酷い目に遭うかもしれません。自分達ではまったく対応できず、いちいち製造元に送るなんてことだと面倒で仕方ない。
いくら適材適所で任せるのが良いとは言え、ちょっとしたことにも時間がかかりすぎるなんてのは勘弁な話。弦高の調性もネックの調整もろくにできないとか、吊るしたまま何もせず放置なんてのは論外ではないかと。オークションで買うのとリスクが大差ないとか、それでは楽器店である意味も価値もありません。
「仕方ないけどここで買うしかない」と割り切るんだったら、後で任せられるリペアショップを見つけておくか、地力で何とかするしかない。これは多弦に限った話ではなく、4弦だろうと同じですよね。
基本を押さえておく、頼りになる存在を知っている意味はすごく大きい。
まとめ・雑談
6弦ベースも様々な選択肢がある今の世の中。そこまで珍しくもない楽器になってきたと感じます。ただ、依然として複雑で凝ったものになってしまう傾向がある為、そこをもうちょっと何とかしてほしいものだなと。
自分の好みで話すのなら、ジラウドから出てくれればそれで言うことなしなんですが、残念ながら発売は望み薄なのかなと諦めつつもあります。それ以外を求めるのであれば、ヤマハあたりがパッシブで素直なやつを出してくれれば良いのにと思うところ。
・基本はTRB
・34インチスケール
・欲を言えば21フレット
・ライトアッシュボディ
・メイプルネック
・ローズ指板orエボニー指板
・シングルコイルサイズのPU
・パッシブ
こういう感じにごくスタンダードな一本があればいいんですけどね。6弦ベースの世界ってこういうのがなかなか無いから残念。このTRBがもうちょいシンプルだったらとか考えちゃいます。
まぁ、こんな楽器が10万前後で買えること自体、今の世の有り得なさを物語っているのも確かなんですけどね。一昔前じゃとても考えられない、凄い時代になってるのは確実。だからこそ、TRBとかがさらにシンプルにスタンダードになってくれたらなと勝手に期待してしまうわけです。
どうもこうある種の偏見と言いますか、
「6弦ベースは複雑!」
「テクニカル御用達!」
「特別でなければ!」
こんなイメージが弾き手にも作り手にも存在する気がしてなりません。
それこそ前述のマイアングの話ではないけれど、
「もっとシンプルに」
「ロックな6弦を」
「実用的な音を出す」
こんなコンセプトで出したらそれが唯一無二の存在みたいになってしまったりもするから不思議なものです。芸術的な要素とかを削った方がむしろ個性的になったりもするのだから何とも皮肉な話。
かと言って、フェンダーそのままの拡張だとデザイン的に厳しい面があるのも現実。6弦ベースならではの面白味もちょっと薄くなってしまうから難しい。そのあたりのバランスをよく理解し、多弦ならではの利点と欠点を理解している楽器は評価が高くなる傾向があると感じます。
これもやはり6弦に限った話ではなく、
『研究して実績があるところはやっぱり違う』
要するにこういうことなんでしょうね。
思いつきでいいかげんにテキトーに作ってるようなものはいまいち。最初は良い感じに思えたとしても、遅かれ早かれ淘汰されてしまう運命なのかもしれません。
楽器として美しいか音色が素晴らしいかはひとまず置いて、
『道具として優れているかどうか?』
これを見極めることが重要なポイントになるでしょう。
高級な材やパーツを使用しないと良い音が出ないなんてのは、設計自体に問題があるとも考えられるわけです。芸術品のような方向に行くのではなく、もっと味気ないぐらいに道具としての機能を追及してきたものが出てきてくれると面白いですね。
今日のフェンダーのような存在が多弦界にも現れてくれないものか、そこに期待する次第。
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