25年経ったジラウドベースはもうビンテージ?だから良い?

それってビンテージ?

 

1997年製シリアル0001のW-BASS。

ジラウドでも相当レアなこのベース。

 

実を言うと最初のオーナーは、福田さん自身だった。「そうか・・大切な楽器を譲り受けたんだな・・・」なんて、残念ながらそんなドラマとかは無く、ネットで見つけた中古品を手に入れただけ。

ジラウドで聞いたところ、どうやらこれまで数人の手に渡ってきたらしく、感動系の話は本当に全く無い。だからこそ、今回のテーマを先入観や思い入れなく、淡々と語れる部分があると思う。

 

誕生から25年経ったこのW-BASS。入手当時の印象からどれだけ変わったかを問われたら、「特に変わってない」と返すしかない。

自分が入手したのは15~16年ぐらい前だったか? その当時から凄い鳴りだったし、音も個性も完成されていた。

明らかな変化と言うか、変更点があるとしたら、より強固な構造にする為、ブリッジ下部に分厚いブビンガの板を入れてもらったのと、指板にフレットラインを入れたぐらい。それでも、劇的と言える変化は確認できない。

 

となると、ビンテージ楽器に対する認識ってのが、色々と崩れてくる気がしてくる。

木が乾いてよく鳴るようになる?枯れた音がする?磁力が減って独特の音になっていく?どんどん深みのある音になる?風格が漂ってくる?まぁ正直、全然ピンと来ない。

軽くなったとか無いし、乾いた響きがするようになったとかそれも無い。PUの印象も変わらない。25年経ってるベース、10年以上持ってる本人が言うんだから、一つの事実として間違いない。

 

木が乾いてくるって、そもそもの話、生乾きのエボニーなんか使えるわけがない。このW-BASSにしても、加工以前、最初の段階で相当な苦労、手間がかかったと聞いた。

厚さ15mmにもなる、真っ黒で高密度なエボニー指板。その元材を、楽器としてちゃんと使える状態にまで持っていくには、いいかげんな選定や管理でも良いとか、まず有り得ないだろう。生乾きは勿論、過乾燥なんて論外。材を厳選してなお、しっかり落ち着かせるまでの扱いが難しいらしい。

そんな上等材に対し、スーパーな変化を期待するには、10年~20年程度じゃ「たったそんだけ?」って事になるんじゃないか想像。そう考えていくと「乾き」とか「枯れ」って感覚は、木材の状態のそれとは、別の部分を指したものなんじゃないかって気もしてくる。

 

深みのある鳴りって事に関しては、W-BASSは本当に素晴らしい楽器だと断言できる。これほどディープに鳴り響くエレクトリックベースは、他に存在しなんじゃないか?それぐらいの満足度がある。ただ、福田さんの話を聞くに、このベースは最初からそういう鳴りをしていたらしい。

弾き込む事でより鳴ってくる、エージングってものを実感と証明してきた意味では、福田さんほど該当する人もなかなかいないだろう。信じがたいレベルのタッチの持ち主だった事に加え、69年のジャズベをプロとしてリアルタイムで長年弾き続けてた事実には、絶対的な重みがある。しかも、楽器製作者でもあると来たもんだ。

そんな人が「この楽器は最初から凄かった」と言うのだから、この楽器は元から鳴っていた、別格の個体だったと判断できる。

 

しかしまぁ、別格の存在だとは言っても、この楽器の塗装は、カッチコチのポリ系だったりする。見た目変わってこないし、剥がれてくる様子なんかも皆無。

ボディ材はアルダー、だから枯れた音がするのか、経年変化でそうなるのかって、やっぱりそんな印象は無い。塗装の印象も手伝い、ファンタジックな乾燥が起きてるとは、とても思えない。

個人的な好みで言えば、この厚い塗装はなるべく勘弁してほしい。正直、苦手だと断言すらできる。もっと薄い塗装が良かった、渋いカラーが良かった、木地を感じられるぐらいでも良い、そう思ってしまう。

 

でも、そんな分厚く硬いポリ塗装だろうと、鳴りは素晴らしいし、出音も凄い。鳴りの重さ、深さで言えば、10年以上弾き込んだホンジュラスマホガニーのブラッククラウドより、遥かに上かもしれない。

そのホンマホはオイル塗装、もう一本のフレットレスブラッククラウドはラッカー塗装、それらと比較してもポリ塗装のW-BASSの方が、確かな生鳴りを実感できる。

 

と、ビンテージ的な価値観やら幻想の否定をしてるようだけど、失念すべきではないと思うのは、W-BASSは強力アタックや硬質感、豊富な高倍音を武器にする楽器ではないって事。

そもそも「枯れ」なんて要素は求めてない、バキーン!カキーン!って音で勝負するもんじゃない、サウンドバリエーション、レンジの広さを売りにするわけでもない、常識的なジャズベースのそれなどからすれば、かなり異端にある楽器だと言える。

つまりは、実は全然比較になってない、感覚や表現がそのまま該当するとは限らない、色々ピントが合ってない、そういう面も多分にある話になってるんじゃないか、そこも頭に入れておきたい。

分かりやすい変化を感じ取りづらい、ある種、鈍感とも言える部分がありそう。

 

とは言え、だからこそ気になる部分も出てくる。「ビンテージ楽器に何を求めるのか?」このめちゃくちゃ基本的な部分。でも何か、意外と疎かになってしまう気もする、色々曇ったり濁りがちで厄介なポイント。

ビンテージそのものが欲しい!新しい楽器じゃやっぱり真似できない!満足できない!実はそれってのは凄く分かる。60年代前半のフェンダーを弾いて、その圧倒的な出音にビックリさせられた。「あぁ、これが欲しくなるのは当然だな・・・」って納得してしまう。

そして思うに、それは元から楽器そのものが良かったって事だろう、その時代、その空気、その時間、その人達によって作られた物は、どうやっても再現できないんだろうなと実感する。

 

材料を似せようが、同じ工法工程にしようが、寸分違わずサイズを整えようが、決して同じにはならない。経年変化ではなく元からそうだった、そういう音だった、弾き込むとか云々以前、最初から決まってるものってのがあるんじゃないかと。

60年代の楽器は60年代の空気を吸ってたんだろうし、もしかしたら、その時代の微生物やら菌やらも関係してるのかもしれないし、そいつらの餌から何から、そういう要素も含めて音が作られてるのだとしたら、そりゃ真似できるわけが無いんだろうなと。

まぁ、そこまで考えるのは、ちょっと妄想じみてもいるけど、1mmも認めない完全否定までは、出来ない気がする。

 

個人的な印象から言えば、良いビンテージのフェンダーって凄くレスポンスが良い、自然と音が前に出てくる、パンチがある、小さな音も大きな音も情報量豊富に出力される、それがとても心地よい。

加えて言うなら、やはりどうにも真似できないニュアンスがある、原液そのものなオリジナリティを感じる、「あ~!あの音が出る!」なんて感覚に陥ったりもする、そこに惹かれてしまう。

だからこそ、その素晴らしさを経年変化の手柄にしてしまうのは、納得いかない部分が多々ある。時間が経てばみんなそういう音になるのかって、そんな実感は無い。

 

そういう楽器、その個体そのものが欲しいのか?それ的な要素、魅力を持つ楽器が欲しいのか?全く別の角度、アレンジから作られた楽器が欲しいのか?ちょろっと分類するだけでも、楽器選びの仕方が大分違ってくると思う。

「ビンテージ完全再現!」みたいな物を手に入れたって、まぁたぶん、超高確率でそれそのものにはならない。だからと言って、その楽器が悪いとか無価値って事にもならない。

求める物がビンテージ個体そのものでないなら、求めていた素晴らしい楽器として該当する可能性も大いにある。それを弾き込んでいけば、またさらに、素晴らしい楽器に成長していくはず。

 

話をW-BASSに戻すけど、まぁ本当、「ビンテージジラウド!」とか「25年の重みと深み!」みたいな言葉、付加価値を付けたくなるかどうか問われたら、自分的にはNOかなと。

だって、まだまだ新しい物に見えちゃうし、最初から良かったし、ヘタれる様子が全くないし、これにビンテージならではだの幻想的な何かを抱こうってのは、ちょっと無理がある気がしてしまう。

何となくだけど、もうさらに25年経っても、こいつはこのまんまな気がする。

 

50年経たなきゃビンテージ名乗れない、価値が無いなんて言い出したら、80~90年代頃、60年代フェンダーはただの中古楽器扱いだったのか、お手頃に売ってたのかって話になる。

今より高騰してないにせよ、恐らく、そう都合よくは行かなかっただろう。別格とも言える程の音的価値があったからこそ、評価もされていたはず。

元々は価値も質も無い物、それが経年変化でめちゃくちゃ良くなる、とんでもなく化けるって、その認識と考え方は、かなりの無理筋。50年経っても、そのベースはそのベース。大本、基本が変わる事はない。それが真実に思えてならない。

 

古かろうが新しかろうが、良い楽器が欲しい、良い個体に出会いたい、そこだけ忘れないようにしておけば、楽器選びはそれでいいんじゃないかと思う。ビンテージなら無条件に良い、時間が経ってるから成長してる、それはどうにもピンと来ない。

毎日めちゃくちゃ弾きまくった、30年共に過ごしてきたとか、そういう話だったら、自分は共感できる。鳴りが当初とは別物になってるとか、こいつの鳴りは特別だってなるのは納得。

でも、それとビンテージをイコールにしてしまうのは、だいぶ違う。起きてるのは別の事なんじゃないか、単なる時間経過の手柄じゃないだろって、やっぱり思う。

 

良いフェンダーは最初から良かった、良いジラウドは最初から良かった、最初は鳴ってないフェンダーも成長するポテンシャルを秘めていた、最初は鳴ってないジラウドも成長するポテンシャルを秘めていた、それなら分かる。

楽器は弾き込むほど音が変わる、鳴りが良くなる、成長する、それはユーザーに委ねられる問題であり、ただ時間が通り過ぎただけなのとは違う。弾き込んだ時間、鳴らし方が問われる。

 

ビンテージ云々に惑わされない姿勢を持つならば、楽器そのものに正当な価値を見い出したい。そして、それを使いこなす、さらに成長させる、期待に応える音を出すのは、弾き手自身に他ならない。

 

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