アンソニージャクソンとジョンマイアングのタッチを考える。

対極の楽器から見えるポイント

 

先日触れた両者の楽器の違い。ネック幅、弦ピッチの問題は想像以上にタッチにも影響をもたらすのではないかと思う。

それこそ、タッチを追求した結果あの仕様になっていったぐらい、重要なポイントな可能性もあるかもしれない。

 

ひたすらな音数と超難度がもう前提にある、それを容赦なく求められるマイアングの場合、アポヤンド時に弦に早く当たってくれた方が、都合の良い面が沢山あるはず。

音を出したすぐ後、次の音を出す動作に即かかれる意味は大きい。左手についても同様、慣れてさえしまえば、よりギター顔負けに動かす事が出来るはず。

 

ただ、ここで考えたいのは「狭い方が速弾きするのに楽!」って話とは異なる音要素について。

演奏を完璧にこなす、難しいフレーズを弾くってだけだったら、35か36インチ&ワイドピッチのタングの頃にすでにもうやっているし、元から基本的な技術は完成されている。

にもかかわらず、あまりに独特なシグネチャーモデルを作り上げた意味、そこについて考察してみたい。

 

彼の演奏姿に時として驚かされるのは、異様とすら言えるぐらいの弦のたわみ。

例えば3弦をアポヤンドで弾く場合、3弦から指が通った後、そのまま4弦に当たるわけだけど、4弦の方がグニャリと曲がってるぐらい、3弦を凄まじい勢いで弾ききるのがマイアング。

バキバキのタッチと言っても、表面的に叩いて終わりなのではなく、しっかり弦を鳴らす事が大事な音要素としてある。そうでなければ、あのアンサンブルの中で存在感を示せるはずがない。

 

ここで考えたいのは、そのアポヤンド時の打音、実音とは異なる独特の音要素。それが彼の音には含まれているのではないかって事。

そしてそのサウンド、ニュアンスをより高速で出力、実音とほぼ同時に気持ちいいタイミングで出すには、広い弦ピッチは相性が悪いんじゃないかと想像する。

弦間が広いほど、指が当たるまでの時間が発生してしまう、それを何とかしようとする程、更なる指のスピードを求めて逆に力んでしまう、疲れてしまう、違和感になってしまうのではないかと。

 

強力に弦を弾ききるスタイルのタッチであるほど、このアポヤンド時の打音がサウンド要素として混ざってくる。

弦がたわむぐらいに弾ききるマイアングのようなタッチであれば、その打音が鳴ってないわけがないし、それが貧弱であるはずもない。

純粋な実音、弦振動とは異なる音要素、音世界。一口に「タッチが大事!」と言っても、そこには本当に様々な要因が存在している。

バキバキした打撃音のインパクト、初動のアタック音に耳が行きがちだが、その後に発生する弦振動による実音、そしてアポヤンドによる打音、これらが複雑に一体化したサウンドがある。

 

対するアンソニージャクソン。弦ピッチが非常に広いコントラバスギターを演奏、タッチについても、バキバキ叩き付けるように弾くのがメインではないし、ネック寄りでゆったり弾くのが得意でもある。

うねる、唸る、地を這うような、と言うのも曖昧で安易な表現ではあるが、実際、これほど重心低くドッシリ弾けるエレクトリックベースプレイヤーは、そうそう存在しない。頂点と言っても差し支えない人だと思う。

 

一方、歯切れ良くパーカッシブに弾いたり、低音を素早く押し出すのはどうなのかと言うと、それは通常の2フィンガーとは別の奏法に任せてる印象もある。ピック弾き、ミュートして親指で弾く奏法、特に後者を多用するイメージが強い。

相当な速さのフレーズでも親指で弾ききってしまう様は何とも驚異的。あらゆる基礎技術を信じられないレベルで高めていると唸ってしまう。超難度のフレーズであろうとサウンドにたっぷり余裕があるのがこの人の凄まじさ。

 

で、思うに、その余裕を生み出す要因というのは、本人の超高レベルの技術だけから来るものではなく、使用する楽器もそこに大きく絡んでいるんじゃないかと想像する。

エレクトリックベースとしては比較する物が無いぐらい大型なのが、アンソニーのコントラバスギター。スケールが長い、弦間も広い、ボディも大きい、ネックも幅広い、正直、弾きやすく扱いやすいとはとても言えない楽器である。

同タイプを何度か試奏した事があるが、初見では全く歯が立たないとしか言い様がなかった。

 

ゆったり、たっぷり、言葉にするのは簡単だけど、あの弦長を完璧にコントロールするのは本当に難しい。加えて弦ピッチも広い、これも大きなポイントだと感じる。

前述したマイアングの考察から考えてみるに、弦間が広いと次の弦に指が当たるまでの時間が長くなる。

アポヤンド時、最初の対象から次の弦に当たる前に指が減速、ソフトな接触になっているとしたら、より弦振動と実音がサウンドの主になり、パーカッシブな奏法ともサウンドとも異なるものになっていくはず。

 

アンソニーの場合、指板上でゆったり弾くのも特徴。あのタッチから生まれるゆったりどっしりしたプレイも素晴らしい。この指板上で弾く奏法、アポヤンドで強烈な打音を出すのはなかなか難しい面がある。

例えば、3弦を弾いた後、4弦に当たるかと思いきや、指は指板かフレットにも当たり、打音を出しづらくなる。角度も限定的になってくるのもたぶん大きい。

弦を押し込もうにもフレットにぶつかってしまうし、振幅を稼ごうと思ったら必然的に、縦より横方向に弦を鳴らす事になりやすい。

弦高が低いと弦を押し込むのはなおさら難しい。28フレットともなれば、フェンダーのそれとは条件が全く異なってくる。

 

それを考えると、アンソニースタイルでスーパーナローピッチのベースを弾こうとしたら、相当なストレスが生まれると想像する。

指がすぐ弦に当たってしまう。意図しないアタック感が出てしまう、打音が発生してしまう、ゆったり感もどっしり感もかなりの変化が生まれるかもしれない。

弾くポジションがネック寄りになる分、それだけ弦間が狭くなってしまうのも問題。

 

実際、自分はそれで6弦ベースのオーダーを失敗した経験がある。

「広いのはもう疲れる!今回は18mmにしよう!」って3本目のオーダーメイドに挑んだのだが、そのベース、ネック寄りで弾くのが一番良い感じだった為、弦間が狭くて弾きづらくて参った。ナット幅も狭めにした為、余計に弦間の違和感に苦しんだ。

ナット幅が狭いと弦間が急激に縮んでいく感覚になる。前回の失敗を活かして弾きやすい楽器を作るつもりが、完全なる失敗に終わってしまった。

アップライトのようなサウンド、それに適したタッチ、伸びやかに実音を鳴らしたいのであれば、弦間は広くした方が的確だと身を持って知るはめに。

 

まぁ、アンソニーともなればそんな事など関係なく、感覚もサウンドもタイムも全部アジャスト出来ちゃう可能性も高い。

4弦時代からすでにアンソニーらしさは確立されている。フェンダーでもギブソンでも、アンソニーはアンソニーだった。

 

でも少なくとも、それが理想ではなかったわけだし、目的・好み・意図に合ってるかは別問題だろう。実際、初めてオーダーしたコントラバスギターは、弦ピッチが狭すぎて使い物にならない、失敗作と判断したようだ。

自分の奏法、頭の中にある音、それをより具体的に実現する為には専用の楽器が欲しくなる、それを必須に疑いようなく実現してきたのが、アンソニージャクソン。

自らの技術だけではなく楽器の方もとことん追求していく、その妥協なき姿勢にやはり痺れてしまう。

 

かなり妄想じみた考察をしてしまった気もする。でも本当、アポヤンド時の打音、サウンドの立ち上がり、様々な音要素を意識してみると実に多くの事が見えてくるし、弾き方による表現力も広がったり、そのコントロールも具体的になっていくと実感する。

フィンガーランプを使用していても、スピードとタイミングを意識した水平方向のアポヤンドを高めていけば、サウンドは別物になるはず。

 

3弦を1stターゲット、4弦を2ndターゲットと認識し、実音と打音、そのミックス具合やまとまりを意識して弾くのも面白い。

縦振動のタッチを意識しすぎた結果、2ndターゲットの打音ばかりが大きくなり、1stターゲット・肝心の弦振動と実音が弱くなってしまったなんて事も経験してきた。

ただ、それで独特のサウンドが生まれるのも間違いなく実感してきたし、その逆、2ndターゲットの打音を弱めてゆったり弾く事など、より具体的に出来るようになった。

 

タッチコントロールというのは本来、何も考えずにそれやれちゃうのが一番良いとは思う。内に秘める音楽、そのイメージを具現化せんが為に、体が勝手に動いている状態になるのが理想ではある。アンソニーとマイアングなど、その最たる領域にあるプレイヤーかもしれない。

 

特にアンソニーはそういう要素を大事にしていると感じるし、卓越した反射神経、ジャズの精神を非常に強く持ってる人だと思う。

時にはバキバキ言わせながらアンサンブルに勢いや力強さを与えていくのも、実に印象的。感情剥き出し、鬼神のごとき表情も見せたり、無機質なんて事は有り得ない音楽家だ。

 

マイアングにしても、超ナローピッチだろうがスペースたっぷり、ゆったりドッシリ音を伸ばすのも得意な人だし、縦横無尽、的確なタッチコントロールを駆使するのは言うまでもない。

その上で激情に駆られたようなアグレッシブなサウンドを出すのが堪らなく魅力的。ただ単に正確無比なだけでここまで惹かれる事は絶対無いと断言できる。

 

だからこそ、その領域に至るまでにどれほどの修練があったのか、研究、試行錯誤を積み重ねてきたのか、それを強く考えていきたい。

天才なんて呼ぶのも生易しい、尋常ではない修練、修羅の如き積み重ねを続けてきた演奏家なのは疑いようがないこの二人が好きだからこそ、「考えずに自然にやれちゃう」の意味、その違い、次元の高さを怠惰に勘違いしないようにしたい。

何も考えない、意識しない、修練なくそれをやってもただ浅いだけに終わる。

 

今回はこの辺で。

 

ポングのベース教室

怒涛の3時間レッスン!

その日の内に音が変わると好評!

ポングのベース教室スタート!

 

弾き方を鍛えて向き合いたい方、

とにかくベース弾いて遊びたい方、

理想でも悩みでもトークしまくりたい方、

どうぞ気軽にお問合せください!

 

ポングのベース教室

 

 

ベースポムジン

シリアスにもお気楽にも何でもあり!

ひたすらベースについて語るコラム!

 

もっと真面目に弾きたい人にもおすすめ!

悩みすぎを解消したい人にもおすすめ!

音を変えたい人には特におすすめ!

 

ポングのオリジナルマガジン!

読めばベースも弾き方も変わります!

 

ずばりそのもの

ベースの音を太くするパック

note.com

 

30本入りコラム

ベースポムジン4号

note.com