自分の音が出る楽器を選ぶ
結論から言うとこれでしょう。
『人様の音は人様の物』
自らにその『人様』であることを求め続けるのは不毛かなと。
「この人の音が欲しい」
その希望を楽器に求め続ける、探し続けたところで現実は厳しい。それは一生手に入らないし、一生迷走することにもなると思います。
たとえば自分の好きなプレイヤーを5人挙げてみます。そして使ってる楽器についても並べてみます。
スティーブスワロー = シトロン・ハイC5弦
ジョンマイアング = ミュージックマン・ボンゴ
マーカスミラー = 70年代JB・アクティブ
とまぁ、こんな感じかな?
では、自分がその音を出したい、そのニュアンスを出してみたいとします。
・弾き方やセッティングを工夫してみるか?
・一つ一つ楽器を持ち替え真似もしてみるか?
まず経済的な面から考えれば、圧倒的に優位なのは前者でしょう。そして『自分らしさの確立』という面から見ても、前者の方に自分は意味を感じます。
もちろん、模倣をすることは悪いことではないし、何事もそこから始まるもの。ただの無知蒙昧、傲慢なだけで鍛錬も学習も何もしないことが良い姿勢だとは思いません。どう頑張ったって現実的ではないこともあります。
一方、その『誰かの音』を自身に求め続ける、楽器に要求し続けるのはどうなのかと疑問になってしまうところ。
「これが欲しい!」
「こういう風に弾きたい!」
「こういう音を出したい!」
あって当然なこの感情ですが、これが他人が作り出したものであったり、そこにあまりにも己というものが存在していない場合、一体どこで決着がつくのだろうか先が見えなくなってしまう、分からなくなってしまうに感じます。
憧れの人が使ってる楽器をそのまま使ったって、その人本人にはなれません。余程に追い込んで極めでもしない限り、成りきることも不可能。その成りきりの究極に目指すにしても、体型があまりに違いすぎたり、肉体の質も異なるのであれば、真似を志す道はそれだけ困難になるはず。
自らを要素の外に置きながらも固有の音色と個性の要求が強すぎる、求める希望が大きすぎるという、それが続く限り、不毛な楽器選びも延々としていくことになるかなと。
良い音がする楽器が使える楽器とは限らない
その楽器が持つ固有の音色、思わず魅了されてしまう素晴らしい個性。そういったものに惹かれる気持ちって自分も凄く分かります。以前より物欲がなくなってきたとは言え、欲しいと思う楽器はやはり存在しますね。
ただ、そういった楽器をいざ所有しても、大体の場合、弾いていく内に疑問が湧いてくるのが正直な話。
「これは果たして自分の音なんだろうか?」
「これが本当に自分に必要なんだろうか?」
「これが自分にとって理想なのかベストなのか?」
こういう疑問ですね。
一音弾くだけでも納得してしまう音、買って良かったと思える音色。そういう楽器って確かにありましたが、不思議と飽きちゃうか使い道を感じなくなったり、しまいには手放してしまいます。良い音はしてくれるんだけど、その『してくれる』というのが気に入らないのかもしれません。ひねくれた見方をすれば、それって『楽器の手柄』であったり、『その楽器の音』という印象が非常に強かったりもする。
いつ弾いても誰が弾いてもその音がしてくれるであろう、楽器の方が個性を主張してしまっているという、その特性が一度鼻についてしまうと駄目ですね。そういう方向性を求めるのであれば、それもこれも全部含めた己との徹底的な融合を果たさない限り、楽器の方に負けてしまうように感じます。それこそ、もうそれしか弾かない、その楽器と自分とで一つの存在と見なすぐらいの覚悟でなければ、絶対に使い道に困ることになる。
幸運にも、それがオールラウンドな楽器だった場合、工夫次第で変化させることは容易かもしれませんが、対極のように一点に振り切ってるものだと確実に辛い。ブレることなど一切許されない、その姿勢を貫いて勝負していくしかありません。その意志が弱いと前項のように、誰かの音が欲しくなったらその誰かの楽器が欲しくなったり、個性を楽器の方に過剰に求めてしまったり、己が存在しない楽器選びになってしまう可能性が高くなる。
固有の強力な音色を持つ楽器を自分のものにするというのは想像以上に難しい。まず嫌われて当然なぐらい、非常に困難な道のりにすらなるものだと考える次第。それだったらほんと、個性は見た目の方に極振りしておいて、音は意外とスタンダードで無難なんて方が扱いやすいような気がします。
どうしようもないぐらい馴染まない音、抜けてこない音など、これを音楽的にコントロールして支配するのは並大抵のことではないでしょう。
自分のタッチが出る楽器 好きな弦の音が出る楽器
これほど厄介で楽しい存在はないですね。自らが成長すればするほど良い音がする。セッティングを詰めればそれに応えてくれる存在。何もしなければそのまま下手なのもバレバレ。特に個性も出ず、平坦で終わってしまうという恐怖。
こういう楽器を持っていれば、そのまま一生使えるでしょう。良い音がするかどうか、全て自分次第。楽器に頼らず、己の中にあるものを高めて出していくしかありません。
とまぁ、これはさすがにちょっとオーバーな話ですが、タッチと弦の音がそのまま表れてくれるというのは、凄く重要なポイントだと考えます。それだけ自由度が高い、自分の思いのままにできるという、そういう楽器を弾くと本当に多くのことに気付かされますね。
自分のタッチは言うに及ばず、弦の種類・状態、セッティング、それがストレートに出てくれる楽器を持っていれば、あれが欲しいこれが欲しいと悩む必要はなくなっていきます。後はもう、自分がなんとかするだけ。望んだ通りに弾けるようにするだけという、実にシンプルな話。
たとえ、それが誰かみたいな音であっても、それそのものになる必要はないし、どうやってもそれにはならない、なれないとも気付きます。やはり、他人の個性と同様のものを自分に求めたり、さらにそれを楽器の方に依存するようになってしまうというのが、一番不毛な行為だと思いますね。それだと、いくら長く楽器を探し続けても絶対に落ち着かないだろうし、その時の気分や衝動にも凄く弱くなってしまうかなと。
そう考えると最初にも言った通り、
『自分の音が出る楽器』
これが一生使える楽器ではないかと強く感じます。
そこを否定してもどうにもならない。それを他の誰かが作ってくれることに期待しても虚しくなるだけ。下手でつまらない自分も受け入れそのまま出してくれる、そこから抜け出すことにも全力で応えてくれるという、そんな楽器があれば迷いはなくなるでしょう。
で、そりゃ~さすがに厳しいって話であれば、ものすごく使いやすい楽器、オールラウンドで何をやっても安心なものを弾けば、変なものに惑わされずに済むんじゃないかと。今の時代、そんな大金積まなくても使える良い楽器はありますし、入手も容易になっています。あれこれ悩んで時間もお金も消費していくより、使える楽器を素直に弾いた方が良いし、音楽的にも正解というものかもしれません。
変な小細工など考えず、定番だったり現場でも評判の良い楽器を使った方が、楽器選びで失敗する確率は大幅に減るでしょう。
結局、自分をやれるのは自分しかいない
『真の個性とは何か?』
そういう哲学的な話はここではしません。しかし、その言葉に取り憑かれてしまうのは考えものだと感じます。目を気にする個性。いちいち周りをうかがう個性。本当は好きなのに他人の反応によって曲げてしまう個性。
それって本当に
『個性』
と言えるのか、凄く疑問だなと。
意識するからこそ強まっていく、高まっていくのはもちろんですが、なんかこう、無いものを無理に強調したり、何かを隠すために別の何かを求めるというのは、あまり前向きではないように思えるところ。
・みっともない
・下手くそ
・バラバラ
・うるさい
・嫌われる
こういう評価を目にするのも耳にするのも辛いものですが、でも、それが自分らしくある結果なのだとすれば、実はそう悪いことでもないのかもしれません。好きなようにやった結果、折れない曲げない結果だったのであれば、安易な迎合を選ぶよりも格好良い姿勢だと言えそうです。
そういう意味でも、それが正直に出てしまう楽器、自分に完璧にハマってる楽器というのは面白いですよね。それはもう、お金の問題で解決できるような領域じゃなくなっているし、そこに人様そのものを求めたって大した意味はない。『誰かっぽい』方にそこで折れてしまえば、つまらなく無難におさまってしまう可能性が高くなったり、人様もどきで落ち着いてしまう事態だって十分に有り得る。
だったらやっぱり、『人様変身セット』みたいなのを求めるより、自分らしくあれる楽器が何かというのを探っていった方が良いんじゃないかなと。
ついつい、あれもこれも欲張りに欲しくなってしまうものですが、その欲張りを物欲や消費の方に向かわせるのではなく、自己の確立と向上のため、先の楽しみのために向けた方が価値も意味も生まれるのではないかと考える次第。そして、その我がままに付き合ってくれる楽器を見つけることが長く使える一本、一生使える存在を手に入れることにも繋がるはず。
まぁほんと、自分ってやつは自分しかいません。自分が他人の真似をすると疲れたり苦労するように、その人もこっちの真似をしようとしたらきっと、一筋縄ではいかないことになるでしょう。だったら、自分である方が健全だし楽しいですね。
「自己の確立とはそんな甘いもんじゃない!」なんて意見もありそうですが、そんな無理せんでも自分は自分です。逃げだろうが温かろうが自分でしかありません。そこを誤魔化す楽器探しなんてする必要もない。クソな自分がクソのまま出る楽器。でもそれが好きだって言える楽器を見つけてみましょう。10年後、最高に好きでイカした一本になっているかもしれません。
それかさっさと見切りを付けて、素直に好きな楽器、不満のないものを手に入れましょう。
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