初ジャズセッション 目次
初セッションは19歳の頃
恩師の紹介で某所へジャズセッションに行った時の話。仲間同士で他の所に見学に遊びになんてことはありましたが、一人だけで出向いたのはそれが初めて。とにかく緊張、店の扉を開けるにも結構な覚悟を必要としていました。
人見知りの小僧で気が小っちゃいってのもありましたが、正直な話、ジャズ界の恐ろしい噂や先輩方の修羅場体験などをよく聞かされていた為、それに怯えてたのが非常に大きかったわけです。
もう何が起こるかまったく分からない。何が起きても不思議じゃない。異常に怖い世界、狂気が渦巻いているって認識。
・エレクトリックの時点で弾かせてもらえないんじゃないだろうか?
・虐め辱められ晒し者にされるんじゃないだろうか?
・後ろからスティックやシンバルが飛んでくるのだろうか?
・罵声の嵐の中で生き抜いていく事になるのだろうか?
・殴られたら殴り返す覚悟だけは決めておこう....
冗談抜きにこんな事態が起こるんじゃないかとドキドキしていた次第。大袈裟なようですが、戦場に行くような気持ちだったかもしれません。
拍子抜けなぐらいほんわかだった
店に行くまでの足取りは重く、かなりガクガクしてたのが本当の話。しかし、いざ店の中に入ってみればそんな心配はどこへやら。異常な緊張感などはなく、とりあえず一安心でした。
前述のように恩師との繋がりもあった為、その流れでホストの方との会話もしやすく助かりましたね。また、その方がベース弾きでもあった為、より会話がスムーズになって良かったなと。どこどこのベースがおすすめ、ウッド始めるなら絶対に習った方がいい、EUBならヤマハのフレームが完璧だったなど、そんな会話をしていた覚えがあります。
良くも悪くもその日は人が少なかったですし、そこまで心臓バクバクになるようなこともなく、当然、想像を絶する争いに巻き込まれるようなことなどもありませんでした。
セッション開始
会話もひとまず落ち着き、他の演奏者さん達も集まってきたところで「そろそろ始めっか~」と進行。
最初に見たセッションも緊張感バリバリで息が詰まるなんてことはまったくなく、「あ、思ったよりも緩いんだな」と安心して見ていた覚えがあります。それが良いかどうかはまた別として、初心者としてはジャズセッションの印象が少し変わった瞬間でもありました。
いくら何でも酷いイメージを作りすぎだろって話ですが、冗談抜きにそれぐらいヤバイ現場を想像していたんですよね。「初心者向け」とか「この店は安心だよ~」とか、
一切信用してなかった!
冗談抜きに、
「やめちまえ!」
「馬鹿野郎!」
「このゴミが!」
こんな罵声が当たり前に飛び交う世界だと思ってましたし、魑魅魍魎が跋扈する空間だと勝手に考え怯えていた次第。
自分の番
色々安心したのか「これなら何とかやれそうだな」と気持ちは楽だったかもしれません。最初に弾いたのは、そのころよく練習していた【枯葉】だったか【酒とバラの日々】をやったような覚えがあります。
しかしま~、実に初心者らしかったと言いますか、「とにかくミスをしないように!」とか「変なことをしないように!」と、そんな安全運転を心掛けていた記憶。「何とか付いていけるように頑張ろう!」とか「邪魔をしないように!」みたいな、何の主張も覇気の欠片もないつまらない心構え。
でも本当、その時は必死にそんなことばかり考えていましたね。当然、面白くも何ともないことをやっちゃってるのがすぐ分かりましたし、周りが全く盛り上がらないのも痛いほど伝わってきました。
弾いてる自分自身、
「なんでこんなフワフワしてんだ?」
「なんで全然格好良くならないんだ?」
「何だこのクソ芋っぷりと違和感は!?」
と困惑しっぱなし。
弾いてる音程自体に間違いはないんだろうけど、いわゆる「スイングしてない」ってやつなんでしょう。ただ単に4分音符を羅列してスケールの通りに弾いてるだけって感じ。自分があまりにクソすぎて本当に恥ずかしくなってしまいました。
指自体は結構動く方だっただけど、それが全く役に立たない。音にビックリするぐらい説得力がない、存在感がない。どうしてこんな違うのか分からない、そんなことを考えながら弾いていたと思います。
そして、
「やっぱりエレクトリックじゃ駄目なのか?」
「ウッドじゃないとそれっぽくならないのかぁ・・」
こんな風に気持ちを誤魔化して逃げようともしていました。
存在感の違いを思い知る
こうして超無難でクソな演奏を終えることに。その後、常連さんらしきギタリストさんが現れたのですが、ここでまたさらにヘコむことになります。 このギターの方、今でも強烈に記憶に残っていますね。
もうほんと、
「変態!」
としか言いようがなかったです。
喋り方の時点でなんか変だったし、音もグニャグニャしてよく分からない。フレーズも「何じゃこりゃ!?」って感じ。本当に一瞬で「場を持っていった」という印象。
その時やったのは『All of Me』だったかな?あのシンプルな進行の曲がなんであんなわけの分からない感じになるのか、アバンギャルドで危険な雰囲気になってしまうのか、色々な意味で圧倒されっぱなしでした。
自分が無難なラインしか弾けないだけに、そのおかしさがより際立つんですよね。なんでこんなことになるのかと、もはや笑えてしまうぐらいのものがあったなと。
記憶の切れっぱしにすらなれないのは論外
その変態ギタリストの登場で一気に目が点になった初セッション、そこで強烈に思ったのが、
「あぁ・・この人達は明日になればもう俺の事なんか忘れてるんだろうな・・・」
こういうことでした。
軽く10年以上経っててもその人をこうして覚えている一方、あの時一緒だった人達はまず間違いなくこっちのことなんか覚えていないはず。「無難にやりきろう」とか「間違えないようにしよう」とか、そんな心構えと思考がいかにクソで役に立たないか格好悪いか、すごく勉強になりましたね。
なにも記憶に残らないぐらいだったらいっそ壊れてみるか、信じられないポカかアホなことでもやった方がマシだったんだなと。良くも悪くも、なにか一つでも爪痕を残すべきと言うか、「中途半端なお利口さん」ってのが一番最悪なんだと思い知った次第。
新たなベースさん登場
すでにヘコみまくりですが、このセッションでショックを受けたのはこれだけではなかったのでした。もう一つ絶望を叩き付けられる出来事があったんですね。
その日のベースは最初、ホストの方と自分だけだったのですが、後からまた新たなお客さんが現れ、その人は最初はウッドを弾いてました。自分のあまりのクソさに完全に意気消沈しながら、「やっぱアレじゃなきゃジャズは駄目なのかなぁ・・・」なんて眺めていたのを覚えています。
やはり、あのブンブンした感じが何ともジャズらしい印象。
「やっぱこれだよな!」
とか他の人達もそう思ってんだろうなぁ、なんてネガティブに考えながらモヤモヤしっぱなしです。
で、その方が演奏を終え、「いや~、そのベースすごい良さそうですね。」と話しかけてくれました。その時に自分が使っていたのは新品5万ぐらいで買ったバッカス。ジャコモデルみたいなフレットレス。「見た目良いし初めてのフレットレスに丁度いいかぁ」なんて感じで使っていたベースです。気に入っていたものなのは間違いない一方、その日は間違いなく「こいつやっぱ駄目だな!安物だ!」と失望して楽器を卑下していたと思います。
そしてここからが新たなショックの本番。その方が「ちょっと弾いてみても良いですか!?」と目をキラキラさせながら話してきた為、「えぇ!勿論!でも大した事ないですよww」と特に何も考えずお気楽に貸し出した次第。「へ~、ウッドと両方弾けるのか羨ましいな~。でもあれじゃ比較にならないんじゃないかな?」なんてノンキに構えていましたが、曲が始まったらそこでブッ飛ぶことに。
「おいおい嘘だろ・・俺が弾くとゴミだったのに・・」
と、その考えられない現実に困惑。エレクトリックでも普通にジャズになってるわ、ソロはバリバリ弾くわ、初めて触るものだろうにガンガン使いこなしてるわ、本気で泣き崩れたくなりましたね。
「ウッドのおかげ!」とかそんな価値観はあっと言う間にブチ壊された現実。「悪いのは楽器じゃなくて自分だった・・・」と認めるしかない。演奏が終わり、「いや~、これ良いですね!欲しいかも!」と笑顔でその爽やかな言葉をかけられましたが、極悪な嫌味か皮肉のように感じたかもしれません。
勿論、そんなわけはないんですが、どうやったって自分を攻めるしかない。ただただ、自分の不甲斐なさに落ち込むのでした。
たった一度でも濃密な体験ができる
そんなこんな自分への失望がうずまく中、最後はこれまた定番の『チキン』をやって締めて帰宅。怖いことなどなくソフトだっただけに、実力的に完全にボッコボコにされた気分でしたね。ま~ほんと、そんな人達に交じって弾いたり比較されたり、あれは凄い日だったなぁと記憶に残っています。
後に色々とうんざりし、最近ではジャズに歩みよることはほとんどなくなってしまいましたが、しかし、ああいった経験を積むというのは本当に貴重なことであり、良い勉強になるのも間違いないですよね。
「アットホームなジャズセッションなんて有り得ないだろ!?」なんて意見も分かりますし、危険と隣り合わせだからこそ面白い世界だってのも確かなんでしょうが、それでも気の小さな初心者だった身としては本当にありがたい場でした。銃弾と空襲の中を生き残るようなガチのトラウマを植え付けられるようなこともなく、後の糧になる良い意味でのショックと励みになりましたね。
イメージ悪いけどなんだかんだジャズは楽しい。スタイルと好み的に深く関わろうとはならないけど興味は尽きない。実に変な魅力がある面白い世界って印象です。ソフトなジャズや現場が良いかどうかって話はともかく、ああいった場がもっと身近になっていってくれたら、それはそれで素晴らしいことですよね。
潜在的にジャズへの憧れや興味を持っている人って沢山いるはずですし、嫌味で古臭いおっさん達が偉そうにするイメージ、現実がどんどん崩壊していったらと願います。
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