縦振動のタッチ(14)
タッチ鍛えるならやっぱりまずはパッシブ
「パッシブこそが真の音!」みたいな妄信はどうでもいいと以前から話してきたこのブログ。一方、パッシブベースでタッチを鍛えることで結果が出てくるのも確か。自分自身、純パッシブのOPBで必死に練習をしていた時期があります。
先日も話したような酷いアクティブベースなんかを使うぐらいだったらパッシブがおすすめ。シンプルで迷いもないベースの方が遥かに良い実感あり。
パッシブであれこれと変な木材を使おうとしたって大体は悲惨。木目のハッタリなんか音には通用せず。過剰に弾きやすさを追求しようとしてもそれだけ音も痩せてしまう可能性が高いから厄介。
それを誤魔化すために癖の強いPUや高出力なものを求めるのは疑問。電気的なパワーを得ようと四苦八苦するのではパッシブにこだわる意味もなんだか微妙。
パッシブにこだわるイコール、
『タッチにこだわる!』
これなんじゃないかと。
凝った楽器になるほどタッチレスポンスは悪くなる傾向
木材による音色の違いについてよく語られていますが、疑問になることも本当に多いこの世界。肝心のタッチレスポンスについて語られることなんかほとんどないし、固定観念により決め付けばかりでは信用できません。
異なる材を組み合わせたりすることにより、輪郭やアタックが向上するだのどうだのとよく言われていたりもしますが、正直、それとタッチレスポンスについての感覚が同様になるのかどうかは個人的にはかなり微妙な印象。
見ため重視なだけで実はスカスカな木材など、そういった物をトップに貼ったところで音的な正解に繋がるとはとても思えません。実際、加工前の某人気材を某公房で見せてもらったことがありますが、ま~、笑っちゃいますよほんと。高密度の正反対、朽ちて穴だらけな木を樹脂で埋めてなんとかするって使い方をするみたいです。
変な話、高級なベースの世界になるほど油断できません。おかしな材が用いられることが多いので要注意。ラミネートを駆使したり複雑な加工をするものがよくあるように感じます。
皮肉にもそういった木工技術を駆使したものになればなるほど、豊かで自然なボディ鳴りについては逆に自信がなくなっていくような印象。高出力なハムバッカー、複雑なプリアンプ、電気的な力に頼ろうとする感があるから不思議。
「実はパッシブで行ける自信がないんじゃないか?」
不信を抱きます。
複雑な構造になるほど電気な力に頼る傾向
「パッシブで十分!」
「欲張らないシングルコイルがいい!」
「素直にそのまま良い音を出す!」
木工が自慢の多弦やハイエンド系で自信満々にこう主張する楽器ってほとんど見ない不思議。大体の場合、大きなハムバッカー、高出力で高域特性の悪そうなPU、ツマミの数も沢山ある多機能なプリアンプまで搭載したり、後付けで何とかしようとしてる印象に疑問が湧きます。
ハイポジションが弾きやすいように過剰なまでにジョイントを削ってしまうのもそうですが、ボディ鳴りのことなんかまったく考えてない感がどうにも強い。そういった楽器のタッチレスポンスの悪さには本当に閉口します。
良いタッチが身についてくればボディ鳴りの感覚が分かってくるし、そのレスポンスや鳴り方の傾向も掴めるようになってきます。超高級なベースだからって高速な仕上がりかは実はかなり微妙。むしろ要警戒。売り文句や安易な評判に騙されず構えた方がいい。
これまた妙な話、タッチを鍛えるのはある意味ですごく経済的であるとも自分は考えます。あまりに反応が悪かったり出音もひどいものが存在することが分かってくるようになるとハイエンドなんてものに興味がなくなってくるんですよね。
多くのベースに懐疑的になっていってしまう可能性があるのだから、これってある意味では怖い話。いっぱい装飾して売りたい側としては鍛えられたら非常に嫌な感覚とも言えそうです。
高級=絶対に良い音してくれないと困るのかもしれない
世の中、弾いた瞬間にその異常な鈍重さが分かるようなものもあったりするから困惑。安物でネックから何から全てが酷いならともかく、かなり高級であるにもかかわらずクソ遅かったりするのだから恐ろしい。
と言うか本当、ハイエンド系にこそ注意した方が良い印象。繰り返しますが疑問になるものがすごく多い世界です。
接着剤が問題なのか?異なる材の組み合わせが裏目に出るのか?不要な干渉が起きてしまうのか?実は元家具職人とかで楽器には全然興味なかったりするのか?
色々な原因がありそうですが、いずれにせよ変な風に凝った作りになるほど実はリスキー。安物にすら劣ってしまう可能性が出てくるから怖い。
そうなるともう逆の発想をした方が良くなるのか、とにかくボディは鳴らさずPUとプリで音を作るという方向を行くのもそれはそれで合っているのかもしれません。
こう言っちゃあれですが『人間』って存在ほど不確定な要素はない。それに完全に任せてしまうのは確かにリスクがある。タッチレスポンスが遅い方がその人の個性は出づらくなるし、音も均一になっていくことが考えられる。
「プレイヤーによる振れ幅少なくそれなりの音になるべきだ」って志すならそれも分かる話ではあります。ダイナミクスが大きく変動することも良しとはしないだろうし、タッチにしても起伏なく軽く弾く程度のほうが望ましいんじゃないかと思うところ。
良質な木材の調達に苦労したりその品質も安定しないのであれば、ラミネート加工など木工技術を駆使した方が管理もしやすそう。人間なんて不確定要素に頼るよりPUとプリアンプで積極的にキャラを作ってしまうのも一つの正解ではありそう。
個人的にはそういう楽器は遠慮したいですしかなり寂しい話にも感じますが、ちゃんと目的あって複雑な構造にするのであればそれはまだ理解できますね。やたら高くなるのは首を傾げますが、そりゃこっちが決めることじゃないから仕方ない。
結局は好みの問題に委ねられます。
タッチコントロールでベース人生が変わる
「とにかく安定している分、大きな変化も期待できません」
馬鹿正直にそんなことを言う製作者はいないだろうけど、実際にそんな特性になってるものは多い印象。個人的にはやはりそういった方向のものは勘弁。
「タッチによる変化なんか必要ない!」と考えるのも一つの正解なのかもしれませんが、そういうのばかりだと自分なんかはうんざりしますし、高級=そっち系になるみたいなのも抵抗があります。
だからこそ主張したいのは、ベースが好きなんだったら縦振動による音を体験してみてほしいってこと。「弾き方でこんなに音が変わるの!?」って知ることは絶対面白い体験になるし後の糧にもなるでしょう。
それに応える楽器と適切な弾き方が存在することを知らずにいるのはもったいない。単純に損な話でもあります。今までの認識や価値観が一変する可能性だって十分に考えられるし自分なんかはまさにその口。
今使ってる楽器に自信があるようでも実は疑問を持っている、明らかな不満や違和感があるなど、そういう感覚って意外と正しい可能性があるかもしれません。
そこをあれです、
「高価な楽器なんだから悪いはずがない!」
「あの人だって弾いてる楽器なんだぞ!」
「俺が未熟だから駄目なんだ!」
こんな風に変に誤魔化したり自虐的になってしまうのも一つには危険だと言いたいところ。上品で良い音なんだけど音が全然前に出てこない、アタック感も存在感も弱い等、そうやって無駄に苦労している例なんかもいっぱいあるはず。
「高級ベースがフェンジャパに負けた・・」
ただのパッシブベースにとんでもないカウンターパンチをもらった経験がある自分。値段だのイメージだのに振り回されず、シンプルなものを一度は使ってみることをおすすめします。
タッチで音が激変する=上達も分かりやすいし楽しい
ハイエンドとは逆に「安物だから・・」と諦めるのも考えもの。自覚があるのならばこそ良い楽器にちゃんと触れておくべき。楽器をしっかり選択することにより上達のスピードが激変することは十分に考えられます。
そういう意味も含めてパッシブベースは面白い存在。良い意味でも悪い意味でも未熟なところが出やすいから良い。変化が分かりやすからこそ上達が分かりやすい。
「このベース全然良い音しないな・・」
「やっぱ駄目だわこれ・・・」
「もっと高いやつが欲しいなぁ・・」
なんて失望してたところから一転、他の人が弾いたらびっくりするほど良い音が出るショックって言葉になりません。諦めようとしていた楽器がまさかの別物に変貌。そんな悔しい体験をしたことがある人も結構いるはず。
インピーダンスのマッチングがどうのと不利な点があるのも事実ですが、そういうこっちゃない世界を持っているのがパッシブベース。理屈を超越してとんでもないグルーブを出す人もいますし、そうやって自分のタッチや感覚を叩き上げていくのも良い。
楽器選びにあれこれ悩んだり捻くれるよりまずはパッシブベース。懐古的なのではなくもっと根源的な問題。『ベースを弾く生き物』として強くなれます。
パッシブでも良い音を出せるタッチを身に付ける
叩き上げのタッチと言えば自分の恩師の一人がまさにそんな感じ。その強力なサウンドとグルーブにめっちゃくちゃびびらされました。
使ってるのはべつに高級でも何でもないごく普通のフェンダーのジャズベ。それで恐ろしくブッといサウンド、強烈なグルーブを叩き出す様が何とも驚異に映った次第。縦振動とはまた違った弾き方だったとは思いますが、いずれにせよ強力なタッチであることに違いはありません。
それをしかも自分よりさらに小柄かという体格でやってるのだから参ります。弦高も異常に高かったし弾きづらいの極み。とても真似できないと今でも思いますね。
ああやってパッシブにこだわって凄いことやってる人は本当に格好いい。鍛え上げられたタッチによる問答無用のグルーブとオリジナリティの素晴らしさと言ったらない。
まぁ、この先生の話はちょっと極端な例かもしれませんが、パッシブでも十分に良い音が出せる意味って大きいと実感しますね。その方が何をするにも基準を作りやすいし、確実に実践できれば応用も利きます。
タッチにしても楽器本体にしてもまずそれが基本。いきなり変な方向に行ったり電気任せなことばっかりやってると多くの場面でつまづきます。ベースの低音やグルーブにこだわりたい人にとっては絶対無視できない問題でしょう。
あえて古臭い根性論や気合に触れてみるつもりでもいいし、合理的判断からパッシブベースに触れてみるのでもいいし、キッカケは何でもいい。 アクティブばかりではなく一度はパッシブに行ってみるべき。
それこそ縦振動に興味があるならOPBに触れてみることを強くおすすめ。まさにパッシブそのもの。シンプルの極致。あれで文句なしの太い音とグルーブが出せたら怖いものなし。
泣きが入りそうなその容赦ない厳しさが良い!
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